2016年7月12日火曜日

おすすめ本008 あの現象には、名前があった!『翻訳できない世界のことば』

「この気持ちって、なんて言うの?」  
「このもやもやした気持ちに名前をつけたい!」


これって文章をよく書く方にとって、
わりとおなじみの感覚ではないでしょうか。

その感覚を、ある意味で満たしてくれるのが、
『翻訳できない世界のことば』
エラ・フランシス・サンダース・著
前田まゆみ・訳(創元社/2016年4月刊)です。




本書は、他言語にはその言葉を表す単語が存在しない、
そんな単語ばかりを集めた絵本です。
タイトルどおり「翻訳できない世界のことば(単語)」が集められ、
カラフルなイラストが添えられています。

紹介されているのは、
スペイン語やロシア語、スウェーデン語なんてのはもちろん、
中にはウルドゥー語やイヌイット語、ワギマン語などという言葉も。
(※ちなみにウルドゥー語はパキスタンやインドで話されている言語、
ワギマン語は―ストラリアの先住民族の言葉だそうです)


あの現象には、世界の言語で
こんな名前がついていた!!!


こうした言葉のなかで、まず個人的に多大に共感したのは、
ドイツ語の名詞「kummerspeck(クンマーシュペック)」という言葉です。
これは、直訳すると「悲しいベーコン」。
「食べ過ぎがつづいて、太ること」を意味するそうです。
あるある。あるね。
ベーコンはともかく、こうした状況を表す単語が今の日本にないっていうのが、
不思議なくらいです。
SNSで飛び交う若者言葉あたりに、すでにありそうな気さえします。


で、「喰いすぎなんだよ、このまるっこい奴め!」と誰かに言われて、
何も言い返せなかったときは、
「טרעפּווערטער(トレプヴェルテル)」ってことがよくあります。
これは、イディッシュ語(東欧のユダヤ人によって話されたドイツ語の変種だそう)の名詞で、
直訳すると「言葉の階段」。
「あとになって思い浮かんだ、当意即妙な言葉の返し方」を指すそうです。
夜、布団に入ってから、「ちくしょう! 昼間、ああいい返せばよかった!」って
歯ぎしりしながら地団駄踏むこと、ありますよね。
ないですか? 私はよくあります。
そんなときはこれから、憎々しげに「トレプヴェルテル!」って叫ぶことにします。
トレプヴェルテ! あんまり覚えられる気はしないのは私だけなのか。   


















さて、太ったらダイエットです。ウォーキングでもするとしましょう。
「で、どれくらい歩いてるの?」と聞かれたら、
「poronkusema(ポロンクセマ)!」と返したい。
これは、フィンランド語の名詞で、
「トナカイが休憩なしで、疲れず移動できる距離」のことだそう。
私はこの言葉がとても好きなのですが、
その場所でしか使えない言葉があるのって、すごくうらやましい、と思います。
いいなぁ、トナカイがそのへんにゴロゴロしてる国。
ちなみに、ポロンクセマは約7.5kmだそうです。けっこうある。
7.5kmは、沖縄・うるま市の離島「伊計島」の周囲と同じくらい。
かえってわかりづらいだろうか。



















そんなこんなでウォーキングをしていたら、
めっちゃ好みの異性に出会うこともあるでしょう。
そんなときは、「تیام(ティヤム)」とひとりごちてみたい。
ペルシア語の名詞で、
「はじめてその人に出会ったときの、自分の目の輝き」を指すそうです。
てかこれ、どうやって使うのでしょう?
「はじめてその人に出会ったときの、私の目の輝きときたら!」とか?
なんかお気に入りのキャラをみつけた腐の人みたいになっていますが、
使い方はこれで合っているのでしょうか。気になります。
日本だと「相手の目の輝き」は意識するけど、
「自分の目の輝き」ってあまり意識しないのではないでしょうか。
でも、意外とこっちのほうが大事かも。
「自分の目の輝き」って、どうやって確かめるのか。鏡で?          


















さぁ、万が一、そうやって出会った異性と、
恋仲になったとしましょう。
やがて二人の間には、
「struisvogelpolitiek(ストラスフォーヘルポリティーク)」という現象が起るでしょう。
オランダ語の名詞で、直訳すると「ダチョウの政治」。
「悪いことが起きているのに、いつもの調子で、まったく気づいていないふりをすること」
「また浮気してるのね! でも……いいわ、気づかないフリしてあげる」
って感じでしょうか。何が「いいわ」なんだか。そしてなぜ上から目線なのか。
現状を変える気力がないときって、こんな感じで強がっちゃいますよね。
私は強がるよ。小心だから。

歳をとるごとに、気づかないフリがどんどん上手くなります……。       


















そうやって彼を自由にさせていたら、
最後は「(IKTSUARPOK)(イクトゥアルポク)」
イヌイット語の名詞
「だれか来ているのではないかと期待して、何度も何度も外に出て見てみること」
そんな感じになるのですよ、彼が出てっちゃってさ。

寂しすぎる……!!!                                


















…………って、アレ???
なんか妙にわびしい話になっちゃいましたが、
本書にはこんな筋書はありません!

紹介されているのは単語のみで、
どれもホントに素敵なのです。

ただ、ヘタにその間を繋ごうとすると、
こんな感じで、読み手の心理状態や好みの物語が反映されてしまいます。
繋がなきゃいいんですね。

ちなみに、本書にはいくつか日本語の単語も収録されています。
どんな日本語が、世界の人たちにとって翻訳不能なのか。
気になる方は、ぜひ本書をめくってみてください。

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